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第7話 悪い予感

Author: フクロウ
last update Last Updated: 2025-11-05 19:00:32

 美月は、スマホを手にすると顔に画面を近づけた。手の平に支えられた画面のなかでは、「白無垢の恋唄」の一文とその下に動画だけが投稿されていた。ユーザーのアイコンはなく、ユーザー名も数字とアルファベットを適当に並べただけのものだった。

 動画が勝手に再生される。どこかわからない暗闇が映し出された。建物も人もおらず、街灯の明かりや星や月の明かりもない、ただ黒いペンで塗りつぶしたような映像だけが何秒か続いた。

(何の映像? 意味もないただの暗闇?)

 白無垢の恋唄の詩と同じように妙に引き付けられている自分がいた。意味も分からないはずの暗闇の映像で、音もミュートになっているのになぜか息遣いのようなものが聞こえてくる気がする。生々しい何か、気配のようなものが。

 瞬きをする。と、白い何かが映った気がした。暗闇の中に微かに一瞬。その何かを見たとき、モスキート音のような耳鳴りがした。しかし、それきりで動画は終わってしまった。耳鳴りもいつの間にか消えている。

「どうしたの、みーちゃん?」

「……ああ、いや、なんでもないよ。返すね」

 わざと指をスクロールさせて違うユーザーの投稿に変えてから、乃愛にスマホを返した。

(よくわからないけど、今のはあんまりいい感じがしなかった)

「ふーん……」

 乃愛は返されたスマホの画面をじっと見た後、また机の端に裏返しでスマホを置いた。

「まあ、いっか! どうみーちゃん、これならすぐに恋人できるでしょ!」

「乃愛。そもそも、私、好きな人いないから。無理やり恋人つくるのも嫌だし。そもそも、それじゃあ何の解決にもならないって!」

「うーん、そっかぁ。我ながらいい作戦だと思ったんだけどな~」

 腕を組み、顎をさすりながら真剣な表情で唸る乃愛を見て、美月はあきれ返って吹き出してしまった。

「乃愛、とんでもない作戦だよそれ。笑わそうとしての冗談だったらそこそこ面白いけど」

「でも、真面目にさ、小学生のときからみーちゃんがいろんな男子からチヤホヤされてるのが嫌だなと思って、みんなみーちゃんに悪口言ったりしてたわけでしょ? たとえば、自分の好きな男子がみーちゃんばっかり見てたりするから。そして、なんとなく嫌な雰囲気があって、別にみーちゃんのこと気にしてない人もあんまり関わらなくなっちゃってって感じなんだからさ。特定の誰かとお付き合いすれば、いい加減落ち着くのかなぁって」

 美月は目を瞑ってまだ残っているアイスコーヒーを飲み干した。

「そうは言っても、付き合うとか考えたことないし、男子に興味もないし。乃愛も知ってるでしょ」

「そうそう。結局みーちゃんの男子の基準がさ、みい兄なんだよ。一番近くにあれだけ完璧な異性がいたら、普通の男子じゃ目に入ってこないよね」

「む……。別に兄さんはそんなんじゃ……乃愛だって、あれでしょ? 誰か気になる人がいるからこの呪い知ったんじゃないの?」

「……ち、違うもん」

 珍しく乃愛からの返事がワンテンポ遅かった。しかも、視線は落ち着かずに机の左端から右端までを行ったり来たりし、顔がわかりやすく赤い。

「東條《とうじょう》先輩?」

「う……」

 美月が意地悪く微笑むと、乃愛の顔はさらに真っ赤になった。

「なななんで! みーちゃんが先輩の名前知ってるの!?」

「それは、兄さんといつも一緒にいるから。そう言えば、最近兄さんと話すとき、乃愛がぎこちなくしてたなぁ、と思って。……好きなんだ?」

 乃愛は小さい体をさらに縮こませて、小さくうなずいた。

「でもっ! 私はこの呪い使わないよっ! だって、なんかズルいもん」

 言っていることはめちゃくちゃだと思ったが、美月も乃愛の気持ちはなんとなく理解できた。

(誰かを好きになったことなんてないけど、確かにズルいし、きっと呪いなんかで結ばれても嬉しくないよね。それに──)

「乃愛は、やらないと思ってるよ。それにこの呪い本当に効力があったとしても、やらない方がいい気がする」

「うん? なんで?」

「なんとなくだけど、嫌な感じがする。上手く説明できないけど、なんとなくね」

 美月は、乃愛のスマホに視線を向けた。アイスコーヒーの氷が音を立てて割れた。

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